世界遺産・今帰仁城跡（なきじんじょうあと）がある今帰仁村（なきじんそん）。乙羽岳（おっぱだけ）をはじめとする山々や、長浜ビーチなど天然のビーチがいくつもある豊かな自然に囲まれたエリアです。

そんな自然豊かな今帰仁村の与那嶺集落に、三線（さんしん）の音色と賑やかな声が聞こえてくる場所があります。三線の音色は、聞いているだけで心が癒されたり、胸が躍ったりするから不思議です。

今帰仁村与那嶺にある昔ながらの古民家で、三線教室を営むのは、与那嶺 直樹（よなみね・なおき）さん。定年退職後、彼が生まれ育った実家を手入れしなおして、2021年に念願の三線教室をオープンさせました。ここに集うのは、地元の方々だけではありません。観光客も気軽に参加できる三線教室です。

■誰でも気軽に参加できる体験型の三線教室

この地域で三線教室をオープンさせたきっかけは、元々地域の豊年祭などで演奏していたこともあり、地元の老人会や青年たちからの要望もあったから。三線教室は大人から子供まで楽しく通え、さらには観光客のかたも気軽に参加できます。

観光施設内での三線体験コーナーは多くありますが、観光客も体験で訪れることができる地域の三線教室はなかなかありませんでした。

ここで三線を教えてくれる与那嶺さんは、琉球古典音楽の師範でありながら、沖縄民謡も学んできた方で、三線歴は40年あまり。キャリアと実績があって、人柄もとても気さくで親しみやすく、初めて楽器をさわる方にもわかりやすく教えてくれます。

沖縄の三線の楽譜「工工四（くんくんしー）」は一見難しそうですが、三線の竿の勘所には目印となるシールを貼っているほか、与那嶺さんが音で読み上げながら教えてくれるのでとてもわかりやすいです。実際に体験した方々も、数十分ほど体験しただけで１曲覚えることができました。

歌の意味も教えてくれるので、覚えやすくなるほか、気持ちも込めて歌えるようになるのだそうです。

観光客が体験できるメニューは約１時間で、プログラム前半は三線レッスン、後半では指笛を習います。指笛は三線と比べるとなかなか習得できないそうですが、なんと吹けるようになるとレッスン代が無料！「もし体験時間内に吹けなかったとしても、みなさんの地元に戻ってから吹けるようになった場合、次に来てくれたときに無料にします」と笑顔の与那嶺さん。指笛が吹けるようになった方は、再び与那嶺さんの三線教室に訪れ自然とリピーターになっていきます。

■未来に向けて

沖縄の三線は400年以上の歴史がありますが、現在の沖縄では三線の原料となる太い黒木（くるち）が少なくなってしまいました。しかし、黒木が三線で使える大きさに成長するのに100年ほどかかるため、現在は外国からの輸入に材料を頼っています。
現在では、元THE BOOMの宮沢和史さんをはじめ有志、組合が連携して黒木を植樹する「くるち（黒木）の杜100年プロジェクト」のアクションも行われています。

そして未来といえば、やっぱり地域の子どもたち。最初は引っ込み思案な子どもも、稽古の発表の場として舞台披露を経験して成長していくそうです。人前に立って演奏し、歌いきることが成功体験となり、だんだん自分に自信がついていくのです。
また学校帰りに稽古場に訪れる子どもたちに混ざって、友達がいっしょに見学に来てもOKなので、自然と地域の子どもたちが集まってきます。そんな自由さがあるだけでなく、「稽古場に来る前にちゃんと宿題を終わらせてから稽古場に来なさい」という教えもあるので、学校の勉強もちゃんとやって、三線のお稽古も両立できるように育っていくと言います。

■三線をきっかけに

なぜ、子どもたちをはじめ、多くの人に三線を教えたいと思うようになったのかを与那嶺さんに尋ねてみると、「自分自身が三線に助けられてきたからです。三線と離れた仕事をしていた時期に、自分が三線を弾くことで音色を通じて友達や仲間ができました。三線を通じて楽しく過ごせたことは貴重な経験でしたし、弾き続けていたことで道が開けていきました」。

そもそも三線を弾くきっかけとなったのは、小学生の三線クラブを羨ましく眺めていた中学生時代に、クラブの先生が年齢や学年を気にせず輪に加えてくれたことだったそうです。今は自分の番として、地元の子供たちに教えている与那嶺さん。こうやって、今帰仁村の与那嶺集落では脈々と伝統や地域の芸能が受け継がれることになりました。観光で体験に訪れたら、きっと体験だけではなく、与那嶺さんの三線と地域を愛する気持ちも受け取るはず。その想いは、皆さんを通じて海を超えて広がります。