人と人との縁が
つないできた場所、
石垣島「やちむん館工房」

#離島

沖縄石垣島の伝統民芸品工房&ショップやちむん館工房 紗夢紗蘿(さむさら)は、石垣島「南ぬ島空港」から車で約3分、亜熱帯ならではの深い緑の木々が立ち並ぶ森の中にあります。工房には、沖縄の島々で作られたやちむん(やきもの)、民具、織り物、染め物などの島の手仕事が所狭しと並んでいます。

敷地内には、やちむん館のシンボルとも言える大きなガジュマルの木が枝葉を茂らせています。その存在からは、石垣島の力強い自然のエネルギーを感じます。

■先人から受け継がれてきたものを未来へとつなぐ

石垣島白保出身でやちむん館の館長、池原美智子(いけはら みちこ)さんは、小さい頃から祖母や母親の働く姿を見て育ちました。農家だった池原さんの家では、お米、醤油、味噌など暮らしの中で必要だった食べ物はなんでも作っていたそうです。そんな暮らしを池原さんは、「贅沢な暮らし」だと言います。

「沖縄の本土復帰を境に、たくさんの文明機器も石垣島に流れ込んできました。私は、そんな『便利』に見える暮らしに疑問を持つようになりました。祖母や母たちは大変だったかもしれないけれど、自分たちで作ったもので暮らしていた頃は、体に良いものを食べ、自然に還るものを使い、本来人間があるべき姿で暮らしていたと思います。そのことがきっかけで、1978年にこの場所を作ることにしました。私の暮らし、生活は、先人から受け継がれてきたものを今に伝え、未来へとつなげていくことです」(池原さん)

■布の一生

ズボンにアイロンをあてながら池原さんは布の一生について話してくれました

「一反の布が出来上がるまでには、たくさんの労力と時間が必要。昔は、一反の布を織るのに1人で糸を紡ぐのは大変だから、皆んなで糸を持ち寄る『糸の模合』があったの。そんなことを知っているから、最後まで無駄にならないように使います。ズボンを仕立てる時は、端切れの布が出ないように裁断します。ズボンが古くなったらほどいて子供の服を仕立てます、そして寝間着をも仕立てます。それが古くなったら最後に雑巾を作り、布の一生が終わります」

もし端切れが出てしまった時は、工房でお客さまが商品を購入した際に200円で購入できるエコバッグを仕立てているそうです。

池原さんからいただいた名刺には、小さな古布の端切れが貼られていました。

■手仕事と暮らしの知恵が詰まった工房

やちむん館では、沖縄本島と八重山諸島から合わせて26ヶ所のやちむん(やきもの)工房の器がセレクトされ販売されています。また、民具を中心としたさまざまな手仕事も並んでいて、どれも手にとって見ることができます。自分の手に馴染むものを見つけると欲しくなってしまいます。

竹富島のアトリエ五香屋の酒器やカップと月桃のコースター

敷地内には、商品を販売する工房の他、民具づくりの素材となる植物やハーブなどを育てる畑もあり、池原さんの生きざまに共感する島内の業者さんたちからたくさんの注文を受けています。

工房の裏手には井戸もあり、工房周辺の畑や草木への散水に井戸水が使われています。また、汲み上げられた井戸水を屋根に散水することで室内の温度調整にも役立てています。暮らしの知恵がいたる所に散りばめられている環境には、自然とワクワクした気分になります。

■それぞれの得意が生かされる職場

月桃のあんつくを作るための素材づくりの作業を行なっているところ。

工房で働くスタッフは、それぞれの都合の良い時間帯やスケジュールで工房を訪れ仕事をこなしています。池原さんは、特別なルールを作ったわけではないけれど、この場所が好きな仲間が集まっていることもあり、ミーティングを重ねながら自然と従業員が働きやすい環境になっていったのだと話します。

工房で働いているスタッフたちは、畑がやりたい人、民具がやりたい人など、それぞれの興味があることや得意な分野を生かしながら働いています。そのため、お互いに尊重しあいサポートしやすい場所になっているのではないかと感じました。

■民具づくり体験ワークショップ

先人たちの知恵が詰まった民具は、暮らしの中で必要なもの、使うもの、必需品としてつくられていました。草木でつくられる民具は、プラスチックと違い古くなって使えなくなったら土に還ります。

やちむん館工房では、月桃や木の実を使った民具やアクセサリーづくりの体験ができます。

月桃コースター、月桃ガンシナー(なべ敷き)、月桃ランチョンマット、月桃まくら、月桃ミニかごなどの他、3日間の体験コースとなる月桃あんつくまで、工房で販売しているものと同じものをつくることができます。

月桃のあんつくと月桃のガンシナー

自分だけのオリジナル民具やアクセサリーをつくることで、島の植物をより身近に感じることができ、手仕事の奥深さや楽しさを体験することができます。また、ゆったりとした時間が流れる工房でおしゃべりをしながら手を動かす喜びは、まさに池原さんが言う「贅沢な暮らし」とつながっています。

■人との出会いから生まれる「ご縁」

「この場所は、多くの人に支えられ、助けられながらつないできました。人との出会いから生まれる『ご縁』がまた新たな『ご縁』を呼び、大変な時もその『ご縁』のおかげで不思議と乗り越えて来ることができました。人との出会いは財産であり、誰と出会うかで生き方までもが変わることがあります」と話す池原さん。

工房にいる犬たちや猫たちとも様々な「ご縁」でつながり、お世話をすることになったそうです。

石垣島の大自然に囲まれたやちむん館工房には、ここだけに流れる特別な時間があります。それはきっと、先人から受け継がれた知恵や技がたくさん詰まったこの場所が醸し出す「自然な暮らし」という贅沢な時間なのだと思います。

INFOMATION
沖縄石垣島の伝統民芸品工房&ショップ
やちむん館工房 紗夢紗蘿(さむさら)
  • 住所/〒907-0242 沖縄県石垣市白保1960-15
  • TEL・FAX:/0980-86-8960
  • 営業時間/10:00~16:00
  • 定休日/水・土・日(第2・第4土曜日は営業)
  • 駐車可能台数 5台
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掲載日:
2023.10.26
更新日:
2023.10.27

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花笠マハエ