自然豊かな沖縄県国頭村(くにがみそん)の東岸部に位置する「安田くいなふれあい公園」では、フィールドツアーやパークゴルフを楽しめるほか、ヤンバルクイナ生態展示学習施設「クイナの森」でヤンバルクイナを生態観察することができます。
■「クイナの森」までの道のり
ヤンバルクイナ生態展示学習施設「クイナの森」までは、那覇空港から約120キロ。約2時間30分かけて沖縄県最北端の村・国頭村の安田(あだ)を目指します。
北上するにつれ車窓の景色は、だんだん豊かな自然へと変わり、感動的なやんばるの森やコバルトブルーの海の風景が見られます。
「安田くいなふれあい公園」に到着して受付を済ませた後、一際目立つヤンバルクイナのウォールアートが目に入ります。ここがヤンバルクイナ生態展示学習施設「クイナの森」です。
■とても頭の良いヤンバルクイナ
「クイナの森」にはヤンバルクイナの生態や生育環境を知る資料ブース、実際に生息するやんばるの森を再現した観察ブースがあります。縄張り意識が非常に強いヤンバルクイナの特性に合わせて、常に1羽のみ飼育・展示しており、9時30分から16時30分の間で約30分間隔で行われるスタッフの解説を聞きながら生態観察することができます。
元々は非常に警戒心が強いヤンバルクイナなのですが、「クイナの森」のヤンバルクイナ「クー太」はお客様の望んでいることを察することが得意なようで愛嬌たっぷりです。
水浴びをする様子を見せたり、時折こちら側に近付いてきて「写真撮ってぇ〜」と言わんばかりに見つめてきたりと、ヤンバルクイナと近距離でふれあえることに驚かされました。
また1時間おきにクイナペレット(魚粉やタンパク源を固形化した餌)が落ちてくる時間になると周辺を忙しなく動き回り、まだかまだかと待ち侘びる様子はとっても愛くるしいです。
実はクイナペレットが落ちてくる時間を記憶しているそうで、餌が落ちてくると猛ダッシュで駆け寄る姿も見ることができました。解説員によるとヤンバルクイナは時速30キロで走ることができるそうです。
ヤンバルクイナの体格に対する脳の割合はカラスの次に大きく、とても頭の良い鳥類なのです。
やんばるの森でも見たくてもなかなかお目にかかれない希少性の高いヤンバルクイナと触れ合うことができる「クイナの森」はとても貴重な場所です。
■ヤンバルクイナの希少性
ヤンバルクイナは環境省レッドリストに記載され絶滅危惧IA類 (CR)に指定されています。
毒蛇のハブ退治のため持ち込まれたマングースや、飼い主に捨てられて野生化した猫・犬が増えヤンバルクイナの命が危ぶまれる生態系へと変化してしまったことが原因の一つです。
元々やんばるの森にいるはずの無いそれらの生き物に捕食され、新種発見時に約2,000羽生息していたヤンバルクイナが、2005年には約700羽まで減少してしまいました。
それから国頭村の安田が中心になり、ヤンバルクイナ生態展示学習施設「クイナの森」を運営してヤンバルクイナを地域の種として守ることを目的に普及啓発活動を行っています。
国頭村や郵便局と協力して「くーやん」と「キョンキョン」と名付けた国頭村公式キャラクターの着ぐるみを製作し、イベントやコンサート等で登場させて観客や子どもたちを喜ばせることができました。
また女優やイラストレーターなどの著名人にも「ヤンバルクイナ親善大使」に就任してもらい、郵便局や公民館で壁画製作を行ったり、安田小学校の子どもたちと一緒にやんばるの森で起きていることをストーリー仕立てにして劇を作りました。
そんな努力が実りヤンバルクイナを守る意識は確実に根付いてます。その結果、約700羽まで減少していたヤンバルクイナの数は現在約1,700羽まで増やすことに成功しました。
■ロードキルに気をつけて!
ヤンバルクイナを守る普及啓発活動を継続する中で難しい問題もあります。
普及啓発活動は観光客をはじめ多くの人を「クイナの森」へ誘致することに繋がり、土日祝日ともなれば1日の来館人数は200人を超えます。そうなれば車の数が増えてヤンバルクイナが車に撥ねられ命を落とすロードキルの事故件数も増えてしまいます。
夜間、やんばるの道を走行しているとたくさんの昆虫が車のヘッドライトに誘き寄せられて車に撥ねられてしまいます。翌朝、その死骸を捕食するためにヤンバルクイナをはじめ、やんばる固有種の生き物が道路へ出てきてしまい命を落とすことに繋がります。
特にヤンバルクイナの行動範囲が広くなる繁殖時期(2月から4月)、子育ての時期(4月から6月)は注意が必要です。
ヤンバルクイナをはじめ、やんばる固有種の生き物を絶滅から守るためには、いつでも停車できるスピードで車を運転することを心がけましょう。
万が一、ロードキルの現場に遭遇したらすぐにクイナダイヤル(NPO法人 どうぶつたちの病院沖縄)に電話連絡(090-6857-8917)を入れてください。その連絡が命を救うことに繋がります。
■ヤンバルクイナを通して地域活性化
「クイナの森」の解説員・小林和彦(こばやしかずひこ)さんに安田の集落を案内していただきました。
ヤンバルクイナと共存してきたと言っても過言ではない安田区。朝夕には当たり前の様に鳴き声を聞くことができ、ふと空き地や草地に目をやると親子で散歩するヤンバルクイナの姿も目撃できるそうです。
安田区は現在人口130人以下の小さな地域ですが、たくさんの魅力が詰まっています。ヤンバルクイナはもちろん、地域の外れには誰もいないプライベート感満載の安田ビーチがあり、安田共同売店・民宿さじをはじめ、小さいながらも地域内で完結できるミニマムな沖縄の観光や暮らしを体感することができます。
また地域の方との距離感も近く、訪れる人はきっと暖かく歓迎されることでしょう。
小林さんは地域住民をはじめ、沖縄県内外問わずたくさんの方々に「クイナの森」と安田の魅力を両方知ってもらうことに注力しています。
例えば、個人的に安田を訪れた方々とサップに出かけたり、学校終わりで公民館に集まっている子供達とおしゃべりしたりすることもあるそうです。小林さんは、安田区の方々と地域外の方々の架け橋のような存在です。
「まだ種まきのような状態ですがこの安田区から“クイナの森”で活躍するヤンバルクイナの飼育員が誕生するといいですね」。そう語る小林さんは地域の種を活かし地域住民を巻き込みながら安田区の活性化に取り組んでいます。
ぜひ、沖縄観光の計画の一つにヤンバルクイナに会いに来て、安田区を散策してみてはいかがでしょうか?