“エイサーのまち”沖縄市。中でも、「コザ」の愛称で親しまれるエリアは、米軍統治時代からの雰囲気を今なお残す、異国情緒あふれる街。音楽や芸術から食まで、個性的な表現者たちがこの街をつくっています。
そんなコザの一角、明るい赤レンガ風の石畳が印象的なパルミラ通りにある「art gallery soranoe(ソラノエ)」。
紅型や土器などに刻まれる根源的な模様や自然にインスピレーションを受けた「琉球イラストレーション」という独自のスタイルで、県内外に多くのファンを持つアーティスト 与儀勝之さんが営むアートギャラリーです。
■全てのものの調和を、好きな模様や風景で描く
「琉球イラストレーション」
沖縄県立芸術大学を卒業し、東京の広告代理店でグラフィックデザイナーとして6年間働いた与儀さん。 仕事では自分の好きなものを描くことはできないため、その創作欲を満たすために”自分の一番好きなもの”を自由に描き始めたのがきっかけなのだそう。
学生の頃から、バリの影絵やアンコールワットの石像、沖縄の紅型や螺鈿細工などの模様が好きだったという与儀さん。そこから着想を得たことが、琉球イラストレーションのはじまりでした。
「文化には境目がなくて、グラデーションして繋がっているんです。泡盛がタイ米で作られていたり、紅型が中国の影響を受けていたり、沖縄らしいとされるものの中にも中国や日本の文化を感じる要素があって、その国の人が見たら自分達の文化との繋がりを感じると思います。 ”琉球”という言葉を使うことで、他のアジアの文化と繋がっている感じを表現できたらと思って名付けました。」
沖縄だけでなく、アジアや世界はそれぞれの文化が混ざり合いグラデーションして繋がっていると与儀さんは語ります。
与儀さんの作品の大きな魅力である自然の風景も、与儀さん自身が沖縄で暮らす中で感じたことが積み重なった世界。
「東京で電車に乗っていて、ビルとビルの隙間から海が見えたときにハッと思う自分がいたんです。別に海を求めている自覚はなかったので驚きました。 たぶん、自分も知らないうちに沖縄を渇望していたんだろうなと思います。 6年間東京にいた時も、時々帰ってくると澄んだ空気で遠くまで見渡せる沖縄の景色がいいなと思ったし、それを見て育ったから今の色合いになっていると思います。 色は生まれ育った環境が出ると思うので、例えば東京で生まれ育っていたらまた違った色になっていたと思います。」
沖縄に拠点を移してからは沖縄の風景に影響を受け、学生の頃から好きだった根源的な模様と組み合わされて今のスタイルが確立されたのだそう。
「海をテーマにした作品は、僕が海に潜って見てきた景色が描かれていると思います。 千葉で展示会をしていたら、サンゴの研究者の方が絵を買いにきてくださったことがあって。僕が海で見た印象で描いているので、 ある意味でたらめなサンゴを描いているつもりでしたが、(描いたサンゴを見て)これはあのサンゴで、あれはどういうサンゴと種類が分かりますとおっしゃってくれて。 この絵を見てモチベーションを上げますと言ってくださったのも嬉しかったです。」
ギャラリーに観光で訪れる方も多く、”家でも沖縄の海を感じたい”と買っていくこともあるのだとか。与儀さんが描いた優しい海からは、沖縄の海の魅力を感じられます。
また、沖縄県が実施する赤土流出防止プロジェクトに賛同して期間限定でつくられた「オリオンサザンスター 赤土流出防止デザイン缶」のイラストを手がけたことも。
「この場合は陸の赤土がサンゴを苦しめてしまったりと、海は海のことだけではなく、世界は1つのものとして循環していることが分かります。 この間、ドキュメンタリーを見ていると、”実際のところ、地球や動物を守ろうというよりは、人類を守ろうという話なんだ”というセリフが出てきて、本当にそうだと思いました。 魚が減ると食べ物がなくなり、空気が汚れると私たちが苦しくなるとか、人間の暮らしに直結しています。 アーティストによっては自然の危機などを(直接的に)表現する方もいるかもしれませんが、僕の場合は自然の美しさや豊かさを描いて、それがかけがえのないものだと伝えたいです。」
誰もが優しい気持ちで見ることができる与儀さんの作品には、”やさしい気持ちで地球も人類も回ってほしい”という気持ちが込められています。
■誰もがカフェのように立ち寄れるギャラリー
東京から沖縄へ帰ってきたころからいくつか拠点を移し、約5年前に沖縄市コザでオープンした「art gallery soranoe」。
初めはアトリエだけを構えるつもりだったものの、県外から来た方に「どこで与儀さんの作品を鑑賞できるのか」と尋ねられることが多く、ギャラリーも併設したのだそうです。 自分が個展をしたいと思ったときになかなか会場が見つからなかったことがあり、それならばと他のアーティストさんも利用できるレンタルギャラリーとしても運営しています。
「沖縄は色々な問題を抱えていますが、僕がアーティストとしてアプローチできるとするなら、どんな人でもアートを楽しめるギャラリーで、文化的教養を高めてもらうことかなと思っています。」 ”カフェのようなギャラリー”がart gallery soranoeのコンセプトのひとつ。 色々な人がふらっと立ち寄って、アート作品を好きに鑑賞できる場を作っています。
琉球イラストレーションの原画を見ることができるのも、art gallery soranoeの大きな魅力。 完成した作品とはまた違った印象で、初めに語ってくださった”根源的な模様”のテイストを強く感じます。タイミングが良ければ、制作風景を見ることができるかもしれません。
また、何気なく拠点を構えたコザも、今では離れられないほどの心地よさを感じているのだとか。 「この周りにはアーティストも多くて、情報交換もしやすいんです。ご飯が美味しいお店も増えているし、何より人も良くて。 僕が体調を崩すと隣のタイ料理屋さんがスープをくれたり、このギャラリーを紹介してくれたりとすごく助けてくれます。 僕もギャラリーに来たお客さんに周りのお店の魅力を伝えて、観光大使のように動いていますよ(笑)」さながらコザの観光大使のようにart gallery soranoeを構えながら、県外での展示会では沖縄にもぜひ来てほしいと伝えることもあるのだそうです。
与儀さんの作品はart gallery soranoeだけでなく、那覇空港内 ロイヤルホストや北中城村のイオンモール沖縄ライカム内 ユニクロにてご覧いただけます。
那覇空港からart gallery soranoeへ向かう道中にお立ち寄りいただけますので、ぜひ全ての作品をお楽しみください。