沖縄県で沖縄本島に次いで広い面積を持つ島、西表島(いりおもてじま)。いまだ島の90%が手付かずの原生林を有するその島は、実に多様な生物が暮らす島で、2021年に沖縄本島北部などとともに世界自然遺産に登録されました。
石垣島から高速船で西表島上原港まで45分ほど。そこから車で10分ほどの海とジャングルに囲まれた場所に「星野リゾート西表島ホテル」はあります。
■日本初の「エコツーリズムリゾート」を目指す
西表島ホテルが目指しているのは、日本初の「エコツーリズムリゾート」。すでに、さまざまな取り組みが始まっています。
2021年より、客室でのペットボトルウォーターサービスを廃止し、ショップや自販機でのペットボトル飲料の販売も取りやめ、館内には無料で利用できるウォーターサーバーが設置されています。マイボトルの持参を推奨し、ボトルのレンタルもあります。
使い捨てのアメニティの提供も廃止し、ソープ類も排水処理の負荷に配慮したソープを開発し導入したのだそう。それから、ショップで販売する商品も使い捨てではないものを選び、そして、島内で丁寧につくられたクラフトなども並んでいます。
チェックイン時には、島内の道路は時速40km規制であること、生物に出会っても餌を与えないこと、植物などを採らないことなど、島内で心がけてもらうことの説明もあります。
■島の自然を知るネイチャーツアー
滞在中気軽に参加できるネイチャーツアーも充実しています。どのツアーも、西表島の自然を愛するガイドさんが案内してくれます。今回、さまざまなプログラムに参加し、自然保護の取り組みを見させてもらいました。
西表島といって連想するのは、マングローブ茂るジャングルや国の特別天然記念物にも指定されているイリオモテヤマネコだと思います。ホテルのアクティビティはヤマネコに関するものがいくつもあります。
「イリオモテガイドウォーク ジャングルコース」は、ホテルの敷地内の動植物を観察するプログラム。
ホテルガイドチームの香山さんは西表島在住8年。大学で哺乳類を学んでいたほどの動物好きで、西表島の自然環境、特にイリオモテヤマネコに魅了され移住してきたのだそう。
リュウキュウイノシシがたくさんいる西表島では、イノシシが土を掘り起こした跡はそこらじゅうにたくさん見られます。そして、「先週、ヤマネコがここを歩いていました」と、なんとホテルの敷地内にもヤマネコはやってきているそうで驚きでした。
■特別天然記念物、イリオモテヤマネコをもっと深く知る
夕方のロビーで、プロジェクターに流れる映像を観ながら学べる「イリオモテヤマネコの学校」では、イリオモテヤマネコの生態をはじめ、島の生態系について知ることができます。30分のミニセミナーで気軽に参加しやすく、この日も立ち見がでるほど、たくさんの人が足を止めて見ていました。
ヤマネコの生息数は100頭ほどといわれています。少ないという印象を受けるかもしれませんが、西表島は小さい島なので、これ以上増えると島の生態系が乱れ、エサとなる生き物が不足する可能性もあります。そのため、一番いいバランスが自然と保たれていると考えられているのだそう。
「イリオモテヤマネコ痕跡ツアー」はヤマネコについてもっと理解を深めたい人向けのロングツアー。11年間西表島の自然を見続け、ヤマネコ、そして、ヤシガニなどの陸の生物を保護するためのパトロールなどを日々行っている中山健さんとフィールドを歩きながら痕跡を辿ります。
目撃情報が多く寄せられる場所に立っているこの看板。本当にそのすぐそばにヤマネコの糞がありました。中山さん曰く、ここ3日くらいのものだろうとのこと。糞を見ると、ヤマネコが何を食べているのかがわかります。
足跡がつきやすい湿った場所を見ていると、なんとヤマネコの足跡を発見しました。おそらく前の晩に歩いたものとのこと。ヤマネコがだんだん身近に感じられてきます。
そして、日が暮れてから行う「ジャングルナイトウォーク」では、ホテル周辺をぐるっと1周し、夜の動植物を観察。主に夜行性であるヤマネコの行動する時間なので遭遇率も高くなります。
真っ暗で静かな森の中へライトを持って出かけます。ライトは普通の黄色い灯りのほか、ヤマネコなどの哺乳類が認識しづらいという赤いライトに切り替えができ、動物へ配慮しながらツアーは進みます。
歩きはじめると、コノハズクの鳴く声が聞こえてきました。空を見上げると、見事な満天の星です。
ほぼ毎日このルートを歩いている香山さんに、同じヤマネコをたびたび見る場所や、ここ数日でできたとみられるヤマネコの通り道などを教えてもらいました。ヤマネコに出会えるかもという期待とともにドキドキしながら歩いていきます。
大きなカニに遭遇しました。ミナミオカガニという陸生のカニの一種で、日本に生息するオカガニのなかで最大なのだとか。
結局この日はヤマネコに出会うことはありませんでしたが、リュウキュウアオバズク、ベニバト、サキシマハブ、ヤエヤマイシガメ、ヤエヤマツダナナフシなどたくさんの生物を観察できました。ベニバトは枝の上ですやすやと眠っていました。
ヤマネコは人慣れしてしまうと、道路に出てきやすくなり、車に轢かれてしまう確率も高くなります。毎年カウントされるイリオモテヤマネコの交通事故死が、2020年と2023年には20年ぶりにゼロとなったのだそう。一番多かった年は2018年の9頭。100頭のうちの約1割が交通事故で死んでしまうと考えたらとても大きな数字です。
ホテルとして、ヤマネコや野生生物が交通事故などの被害に遭わないよう、まずはその生態を知ってもらうことが大切だと考え、プログラムに組み込んでいるそう。
■マングローブに滝に、亜熱帯の自然を味わう
夕暮れの時間には、ホテルすぐ横の浦内川の河口で「夕暮れマングローブカヤック」を体験。日没の少し前にカヤックを海へ漕ぎ出し、マングローブ群落へ進んでいきます。マングローブの生態などの話も聞きながら、サンセットを海の上で味わえる癒しの時間でした。
最後は、山歩きをして滝へとつれていってもらいました。亜熱帯の森のなかを、また植物を観察しながら片道15分ほどでクーラの滝に到着です。西表の滝のなかでもそんなに大きなものではないとのことですが、流れる水の音が気持ちよく、秘境のような雰囲気たっぷりで満足のトレッキングでした。
盛りだくさんのプログラムを体験できた西表島ステイ。おいしいものも食べ、のんびりと滞在しながらも、心に残るのはやっぱり島の自然のこと。
西表島愛溢れるガイドさんやホテルのスタッフからは、島の自然が好きでいつまでも守っていきたいと考えていることがよく伝わってきました。私たちも今回、たくさんのことを実際見て聞いて同じ気持ちになりました。
南の島で自然を思いやる滞在を体験し、日常に戻ってからもまわりの人たちにぜひシェアしてみてください。