沖縄の旬の野菜で、やんばるのおいしさを伝えるレストラン「クックハル」。レストランを営むハルサー(畑人:農家)・芳野幸雄(よしのゆきお)さんに聞く、ハルサー人生をかけたロマンあふれる「“やんばるおいしい”プロジェクト」とは?
■沖縄で育つ旬の野菜を
楽しむ産直レストラン
沖縄本島の北部・自然豊かなやんばるの森の入口、名護市にある「クックハル」。地元のハルサーによって大切に育てられた産地直送の野菜を使った料理がいただけるレストラン。店内には新鮮な野菜もたくさん購入できるので、地元の人たちにも喜ばれています。
一番人気は「畑のランチプレート」。ごはん、スープ、サラダ、肉料理、天ぷら、デリなどをぎゅっと詰め込んだ贅沢な一品です。ごはんは7分づきの地元名護産ミルキーサマー。リーフレタスやフリルレタス、ぐるぐるビーツなど畑で採れた新鮮野菜を使ったサラダは自家製ドレッシングで。かぼちゃ、パパイヤ、キャベツ、ビーツなどが入った旬野菜スープは、ハーブを効かせています。
旬の葉つきたまねぎの天ぷらは、思わず顔がほころびます。お肉はやんばる若鶏のグリルにトマトとフェンネルのソースを添えて。ズッキーニのスパイスソテー、きゅうりのごま味噌和え、キャベツ、トマト、パクチーのオイルサラダに旬野菜がたっぷり入ったオムレツと盛りだくさん。心と体が喜ぶランチプレートです。
■農業に対する先入観を変えた職場
クックハルを営むハルサー・芳野幸雄さん。有機野菜や低農薬で育てられた野菜の宅配サービス会社へ勤務したことがきっかけで、食材や農業に興味を抱きます。
「この世界に入る前、農業は『きつい・汚い・危険・臭い・暗い』というイメージでした。野菜は安く買い叩かれていく市場。そのうえ消費者の顔が見えないからやる気も起こらない。ところが、入った会社では農家が卸す価格を自分で決めている。しかもお客様の声が作り手に還元されて、農家一人ひとりが自分の仕事に誇りを持っていました。」
農家に対する意識がガラリと変わったと、芳野さんは語ります。そこから「生産と流通一体型の仕組みを自分で作りたい」と思い、沖縄で農業を学ぶことを決意します。
■農家をめざし辿り着いた沖縄で迎えた困難
ところが、縁もゆかりもない沖縄で農家になるには過酷な自然環境や農地問題など、生半可な努力ではできないことがわかります。拠点をやんばると決めた際に、まずは地域農家たちの困りごとを聞きました。そこで「手間ひまかけて作った野菜が思った金額で売れない」という共通の課題が見えてきます。農家の希望額で野菜を買取販売するために目指していた「流通一体型の生産」を実現するため「やんばる畑人(はるさー)プロジェクト」を有志たちと始めます。
共通課題を解決するために定期的に勉強会を開き、プロジェクトに関わる農家同士の信頼関係を築きます。ハルサーとやんばる野菜を扱う飲食店と消費者とをつなぐイベント「香祭(KABAASAI)」を毎年3月に企画するなど、“やんばるは美味しい”をキーワードに生産者と消費者の顔が見える場をプロデュースしました
■新たな課題解決から
生まれたやんばるスパイス
2011年に取引先の倒産や取引価格の変動が相次ぎ、ウコン農家が窮地に追いやられることがありました。やんばる畑人プロジェクトで余剰在庫のウコンを使った新しい取り組みができないか。試行錯誤して生まれたのが「やんばるスパイス」です。
やんばる産の秋ウコン・黄金ウコン・島唐辛子・ショウガに、コリアンダー 、クローブ、シナモン、カルダモン、クミンを使ったオリジナルスパイス。配合はスパイス料理研究家の第一人者、渡辺玲氏の監修で生み出されたもの。日本のスパイスはほぼ100%輸入品が現状のなか、半分以上(58%)をやんばる産のスパイスで作ることができました。
■環境に変化に合わせた
野菜作りの可能性
「地球温暖化による影響は年々加速しています。それによって作れなくなった食材もある。でも、そのおかげで作れるようになったものもあるということ。スパイスはまさにその一つです。少しずつ作れるスパイスの種類が増えてきているんです。沖縄はインドカレーに使われるスパイス生産地の北限といえます」
そう語る芳野さんは、スパイスの可能性を極めるために「にわかスパイス研究部」を立ち上げ、やんばる産スパイスの生産やスパイスを使った料理を研究する活動も始めました。
■100%やんばる産の
スパイスカレーを目指して
現在、沖縄でできるスパイスは、胡椒・ロングペッパー、コリアンダー、ディル、フェンネル、島唐辛子、フェヌグリーク、ブラッククミン、シマ菜(マスタードシード)、カレーリーフ、セイロンシナモン、パンダンリーフ、オールスパイスリーフ、カルダモン(月桃の実)、カラキなどがあります。
「日本が輸入に頼っていたスパイスが、やんばる産で出来つつある。これが自給自足の強みです。やんばるには米、塩、砂糖、肉、魚、野菜、そしてスパイスがある。100%やんばるの食材で作れるスパイスカレーが、すぐそこまで見えてきています」
と語る芳野さん。地球温暖化などの環境問題や原油高・円安など、不安定な社会情勢のなかで、地産地消でこの島の未来を支えていく。ハルサーが次に抱く野望は、県産スパイスを広く流通させることです。
流通一体型の組織を作り、やんばるのおいしさを多くの人に広げる。やんばる産スパイスの可能性を見出した芳野さんのロマンは、未だとどまることを知りません。